東京工業大学 実大加力実験工学共同研究講座

[3] 海外で次々と建設される大型実験施設および日本の立場

 

巨大建設物には膨大な鉛直力建設物の重さなど)と水平力地震や風などによる水平2方向の力)
の3方向の力がかかり、構造部材がそれを支えなければなりません。
特に水平力は、地震の速い揺れを再現するような「動的」に与える載荷が必要です。
そのような構造部材の実験ができる大型実験施設が各国で整備されています。
特に米国カリフォルニア大学サンディエゴ校の実験施設(図3-1)が、約20年間にわたり世界一位の座を維持しており、
これに近い規模と性能をもつ施設がイタリアに2カ所台湾と中国にそれぞれ1カ所あります。
さらに中国では、群を抜いて世界一となる施設の完成が予定されています(図3-2)。

 

 

図3-1 中国の実験装置*   図3-2 米国の実験装置**

 

* Sun Jianyun:中国北京の新しい実験装置、シンポジウム「設置が望まれる実大動的加力装置」、日本免震構造協会、2015
** 嶺脇、山本、東野、濱口、米田:実大性能試験に基づく超高層免震建物用大型免震支承部材に関する研究、竹中技術研究報告、2010

 

一方、日本には大型構造部材の実験を動的に行う施設は存在せず、技術認定のための実験は海外施設に依存しています。
先ほど紹介した米国施設の利用者の1/3は日本企業で、実験の予約は1年以上埋まっています。
メーカーは、日本でできる縮小動的実験や実大静的実験を組み合わせて実大動的実験の結果を予想した上で、
自主的に海外で実大動的実験により確認するという、誠心誠意の対応をしていますが、多くの費用と時間がかかります。
企業の開発スピードという観点から見ると大変なハンディキャップです。
実大動的実験でないとどうしても解明できない部分もあり、このように日本の構造部材メーカーや建設業は、
国際競争力の面で非常に不利な状況におかれています。

 

現状では、日本の大型構造部材の技術・品質は優れているといわれていますが、試験機を保有する海外では、
実大実験の積み重ねにより技術・品質が爆発的に向上する可能性があります。
それに負けない武器として、日本に実大動的実験の装置が必要です。
また、品質や性能の優位性を示すため、全世界で統一した基準で試験・評価できる国際標準を
今後は日本主導で確立することも我々は計画しており、
その実現も世界一の性能をもつ大型実験装置が日本にあれば可能になると考えられます(図3-3)。

 

 

図3-3 動的実験装置の性能比較(日本と海外)***

 

*** 静的実験装置の場合、日本では某企業の圧縮荷重5000トン、水平1軸荷重1500トンのものが最大。

 

関連リンク

[0] 講座紹介
[1] 巨大建設物の安全性はどのようにして担保されているのか?
[2] 大型構造部材における“寸法効果”とは?
[3] 海外で次々と建設される大型実験施設および日本の立場
[4] 免震ゴムの性能データ改ざん事件と第三者機関の必要性
[5] 日本に世界最高の大型実験施設を!
[6] 構造部材破壊現象検討研究会での実験計画