構造部材破壊現象検討研究会 アーカイブズ
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[6] 構造部材破壊現象検討研究会での実験計画
構造部材破壊現象検討研究会では、
鉄骨構造、鉄筋コンクリート構造、免震積層ゴム支承の寸法効果を解明するため、
それぞれ3つの分野で大・中・小サイズ試験体(中・小サイズは大サイズの1/2、1/4スケール)
の実験を計画しています。以下、各分野の実験の目的と概要を示します。
【鉄骨構造】
鉄骨WG:中込忠男(信州大学)、川畑友弥(東京大学)、吉敷祥一(東京工業大学)
現在、都市に林立する超高層建物のほとんどは、
施工性が良く工期短縮を図ることのできる鉄骨造で建設されています。
鉄骨造の部材は鋼板を組み合わせて構成されていますが、
超高層建物では巨大な建物自身の重さや地震の力に耐えることができるよう、
厚い鋼板を用いた大型部材が用いられるようになっています。
鉄骨構造は部材同士を溶接やボルトで繋ぎ合わせることで建設されますが、
このように接合された部材内部には板厚が厚いほど大きな残留応力が発生します。
残留応力が大きいと部材が十分に変形能力を発揮する前に
脆性破壊が発生しやすくなることが分かっていますが、
大型部材での実験的検証は行われていないのが現状です。
そこで、図1に示す柱梁接合部試験体を用意して、
残留応力が変形能力に与える寸法効果を検証する載荷実験を計画しています。
大サイズ試験体の梁せいは1200mmで、実際の超高層建物に使われている梁と同じサイズのものです。
図1 鉄骨構造の試験体
図2には小試験体の実験の様子と実大試験の見学会の様子を示します。
図2 鉄骨構造小試験体の実験の様子と実大実験見学会の様子
【鉄筋コンクリート構造】
鉄筋コンクリートWG:市之瀬敏勝(名城大学)
鉄筋コンクリート構造では、
1970年代から梁のせん断強度に関する実験が世界中で行われており、
寸法の増加とともに部材強度が低下する寸法効果があることが指摘されています。
特に、せん断補強筋が少ない梁ではこの寸法効果が顕著に現れることが報告されています。
これは、原子力建屋の基礎スラブのように、
せん断補強を施すことのできない部材において深刻な問題となる可能性があります。
これまでにスラブのせん断強度に関する実験も世界中で行われていますが、
大規模なものや、試験体サイズを正確にスケーリングさせた実験は少ないのが現状です。
そこで、図3に示す鉄筋コンクリート杭頭(柱と杭の接合部分)の載荷実験を実施することを計画しています。
大サイズは、幅3.175m、高さ1.26m、予想強度4200トンで世界最大規模の試験体で、
国内では実験できないため台湾の国家地震研究中心の試験機BATSで実験を行います。
本実験は、複数の杭を有する基礎や厚い基礎スラブに関する寸法効果を解明することを目的としています。
図3 鉄筋コンクリート構造の試験体
図4には大試験体と試験装置の写真を示します。
図4 大試験体の運搬と実験装置
【免震積層ゴム】
積層ゴムWG:高山峯夫(福岡大学)、菊地優(北海道大学)
従来、固有周期の長い超高層建物や免震構造物は、
地震動の揺れが伝わりにくく安全であると考えられてきましたが、
近年超高層建物や免震構造物に大きな被害を及ぼす可能性のある長周期長時間地震動が注目されています。
免震構造物の固有周期が長周期長時間地震動の卓越周期と一致すると、
長時間にわたって免震部材に大きな揺れが発生します。
この揺れにより、国内免震部材の約3割を占める鉛プラグ入り積層ゴムは、
図6のように鉛プラグの発熱により強度が段々小さくなることがコンピュータの解析から分かっています。
しかし、実大積層ゴムで長時間の載荷実験により限界性能を確かめる実験は行われていません。
そこで、免震構造物の安全性担保のため、図5に示す鉛プラグ入り積層ゴム試験体を用いて、
鉛プラグの発熱や積層ゴムの限界特性に及ぼす寸法効果を明らかにする載荷実験を計画しています。
大サイズの直径1200mmは、超高層免震建物に用いられる積層ゴムです。
図5 免震積層ゴムの試験体
図6 鉛プラグ入り積層ゴムの熱・力学連成解析結果
今後、3つの分野の実験結果を当講座のHPに掲載する予定です。
関連リンク
[0] 講座紹介
[1] 巨大建設物の安全性はどのようにして担保されているのか?
[2] 大型構造部材における“寸法効果”とは?
[3] 海外で次々と建設される大型実験施設および日本の立場
[4] 免震ゴムの性能データ改ざん事件と第三者機関の必要性
[5] 日本に世界最高の大型実験施設を!
[6] 構造部材破壊現象検討研究会での実験計画